こんにちは。
Lib税理士事務所、代表の上田洋平です。
今回のお役立ちブログのテーマは、「建設業における元請け業者の労災保険の加入方法と継続事業となるケース」についてご紹介します。
■特異な事業形態を採る建設業の労災保険について
建設業においては一つの建設現場で持続的に工事に従事するものではなく、建造物が完成すれば、そこでの工事は終了となります。
建設業のように当初から事業の期間が竣工予定時期までの一定の期間に限定され、工事の完成など特定の目的を達成して終了する事業を有期事業と呼んでいるのです。
そのため、有期事業においては製造業や販売業、飲食業やサービス業などの継続事業とは異なり、労災保険の保険料の納付手続についても異なる方法が定められています。
さらに建設業は有期事業であるだけでなく、各建設現場で多くの下請け業者が仕事を請け負い、下請け業者が雇用する労働者が現場作業に従事している点も、一般的な事業とは異なる特徴です。
そのため、各有期の工事現場ごとに、下請け業者を取りまとめる元請け業者が労災保険の適用を行い、労災保険料を納めることとなっています。
一方、下請け業者は自社の現場労働者に対して労災保険をかける必要はなく、元請け業者に任せることができます。
建設工事現場は労災リスクも高い現場となりますので、元請け業者は安全管理に努めるとともに、万が一に備えて、労災保険の適用と保険料の納付をしっかりと行っていかなくてはなりません。
仮に元請け業者が故意又は重大な過失により労災保険の保険関係成立届を提出せずに、現場工事を行い、労災が発生して労災保険給付を行った場合、元請け業者は遡って労働保険料を支払う義務を負うとともに、追徴金も課されます。
また、労災保険給付に要した費用の全部又は一部の負担も求められるため、注意が必要です。
■元請け業者と下請け業者の関係性について
建設業においては元請け業者が下請け業者に発注するだけでなく、下請け業者にがさらに下請け業者に依頼する場合や一人親方などの事業主に下請けをさせるケースも少なくありません。
個人事業主は本来、事業主に雇用されていないため、労災保険の適用を受けることができません。
ですが、建設現場では労災事故のリスクが高いうえ、同じ現場で作業に従事しながら、労災保険が適用される者とされない者がいるのは均衡をなくし、現場で働く人たちに万が一のことが起きた場合に十分な補償を受けられないリスクが生じます。
そのため、建設現場においては元請け業者が全体の事業についての事業主として、責任を持って現場に従事するすべての労働者の労災保険適用を行うことが必要です。
個々の下請け業者はすべて元請け事業に吸収され、一つの事業として取り扱われるのが大きな特徴です。
元請け事業主は自社の労働者はもとより、下請け業者も含め、すべての労働者について労災保険を適用し、保険料の納付を行う義務があります。
■建設業における事業の単位について
建設業における事業単位は、建造物や構造物、工作物等が完成されるまでに行われる作業の全体を一つの事業とみなします。
たとえば、ビルの建築工事、ダムの建築工事など、工事現場を一つの事業単位とし、その事業が開始されるごとに労災保険への加入手続と保険料の納付が必要となるということです。
■有期事業の一括とは
事業の単位は一つの工事プロジェクトごとに取り扱うのが原則ですが、一定規模以下の建設事業についてはすべてを一括し、一つの事業として保険関係を成立させ、一般的な事業と同様、継続事業に準じて取り扱うことになっています。
一定規模以下とは、請負金額(税抜き)が1億8,000万円未満で、かつ、概算保険料額が160万円未満の事業となります。
小規模事業における継続事業に準じた取り扱いを有期事業の一括と呼び、これに該当する事業は一括有期事業として取り扱うので注意しなくてはなりません。
なお、一括有期事業に該当しない大規模な有期事業は、単独有期事業と呼ばれます。
■継続事業として一括される有期事業を始めるときに行うべきこと
有期事業の一括は、事業の規模により、特別な申請手続を待たずに自動的に一括されます。
そのため、一括される有期事業を始めたときは、まず初めに保険関係成立届を事務所の所在地を管轄する労働基準監督署に提出しなければなりません。
提出時期は、有期事業の一括に含まれる事業を一番最初に着手した日から10日以内と定められています。
次に保険関係が成立した日から50日以内に概算保険料申告書を所轄の労働基準監督署又は都道府県労働局か、もしくは日本銀行、全国の銀行、信用金庫の本店又は支店、郵便局などの金融機関に提出し、概算保険料を納付しなければなりません。
概算保険料は一括される有期事業を開始した日からその保険年度の末日である3月31日までの間に使用する労働者に支払う賃金総額の見込額に、労災保険率を乗じて計算することが基本となります。
もっとも、建設業においては幾重もの下請け業者を使用することが多く、施工されるのが常態ですから、元請け事業主が下請けのすべての労働者を含めて工事全体の支払賃金総額を正確に把握することが難しいのが実情です。
そのため、工事全体の支払賃金総額を正確に把握することが難しい場合には、賃金総額を請負金額から計算する特例を利用して保険料を計算することが認められています。
この場合、請負金額×労務費率×労災保険率で労働保険料を計算します。
なお、概算保険料が20万円以上となる場合、9月30日までに保険関係が成立した事業場については、延納と呼ばれる分割納付が可能です。
■一括有期事業を終了したときに行うべきこと
ビルが竣工するなど、一つの工事のプロジェクトが完了した場合、事業が廃止されることとなるため、労災保険関係も消滅することになります。
そのため、元請け事業主は確定保険料申告書を提出し、年度の初めに見込みで申告して納付していた概算保険料を精算しなければなりません。
確定保険料申告書の提出期限は保険関係が消滅してから50日以内です。
確定保険料は一括有期事業報告書で算定した賃金総額に、労災保険率を乗じて計算をする必要があります。
下請け労働者を使用した場合の下請け労働者分を含めて支払賃金総額が正確に把握できる場合は、実際に支払った賃金総額より計算することが必要です。
確定保険料の金額が概算保険料の額を上回った場合には、その差額を申告書の提出と同時に納付しなければなりません。
なお、精算の結果、すでに納付した概算保険料の額が、確定保険料の額を上回った場合には、当初の保険料が納めすぎとなりますので、労働保険料還付請求書を所轄の労働基準監督署又は都道府県労働局へ提出して、納めすぎた保険料を返金してもらうことができます。
■手続きに必要な書類について
一括有期事業報告書は請負金額から賃金総額を算定するための書類です。
前年4月1日から当年の3月31日までに終了した事業について、元請け工事に限定した建設の事業の名称と所在地、期間、請負金額などを記入しなければなりません。
同一の事業の種類ごとに記入する用紙を分ける必要があり、一括有期事業総括表に記載した事業開始時期ごとに分けて記入します。
一括有期事業報告書には原則として、1工事ごとに記載することが必要です。
ただし、1工事の請負金額が200万円未満の工事、平成18年4月1日以降に開始された工事については500万円未満の工事である場合、事業の種類別に「○○工事他○○件」と合算することが認められます。
一括有期事業総括表とは、請負金額及び賃金総額より保険料額を算定するための書類です。
事業の種類、事業の開始時期により区分したうえで、一括有期事業報告書の内容を転記してください。