こんにちは。
Lib税理士事務所、代表の上田洋平です。
今回のお役立ちブログのテーマは、「個人事業主or法人?起業するならどちらが得?」についてご紹介します。
■起業するならまず決めること
事業を始めると決めたなら、最初に決めることは個人事業主として開業するか、法人を設立するかです。
当然どちらにもメリット・デメリットがありますが、その判断条件は資金調達の方法や従業員の有無などさまざまあるので、多くの人が迷うかもしれません。
最初におおまかな結論を言えば、個人事業主のメリットは手続きが容易なこと、デメリットは税金面で優遇がないことです。
法人は税金面でも信用面でもメリットが多いですが、手続きが複雑なのがデメリットでしょう。
判断するにはそれぞれの形態を正しく理解し、どちらか自分にとって得かを考え、判断を下す必要があります。
■個人事業主と法人の違い
まず個人事業主とはどういうものか、整理してみましょう。
個人事業主は、その名の通り個人が事業を営む形態です。
理解しやすいのは個人商店などですが、株式会社や合同会社などではなく、多くの場合屋号(やごう)を持って営業を行います。
個人事業主は代表者であっても社長ではありません。
事業年度も国で定められており、必ず1/1から12/31の期間で確定申告を行い、売上や経費を税務署に報告して納税する義務を負います。
一方法人は法務局が管轄省庁となり、設立についても法務局への登記が必須となるのです。
法人には5つの形態があり、株式会社や合同会社(LLC)のほか、社団法人・財団法人・NPO法人があります。
通常起業する法人としては、株式会社か合同会社(LLC)が選択肢となるでしょう。
正確にはこのほかにも合名会社や合資会社というものがあるのですが、この2つは無限責任となり、もしものときには投資金額を超える責任を取らされるので、この形態の選択はまずありません。
つまり、株式会社と合同会社(LLC)は有限責任であり、もしものときにも投資額以上の責任を取る必要がないのです。
この2つは法的・税制的に違いはありませんが、設立時の費用と決算公告の義務の有無、資金調達法において違いがあります。
■どちらが良いかは基準で考える
個人事業主と法人とどちらが良いか、それを決める基準はいくつかあります。
それぞれの基準について見ていきましょう。
・売上規模で考える
まずは事業をするうえで重要となる「売上規模」で考えてみましょう。
売上は税金と深く紐づくため、節税面でもしっかり計算する必要がある数字です。
一般的には年商800万円〜1,000万円超の事業を行うのであれば、法人化したほうが税金面でメリットが大きいと判断できます。
法人を維持するにはコストがかかり、法人住民税は黒字でも赤字でも年間7万円程度となりますし、税理士を雇用するにも費用がかかるため売上とのバランスは重要です。
たとえば事業をまったくしなくても、法人を維持するだけで年間30万円程度はコストがかかるのが一般的ですので、売上によっては節税メリットがあまり得られない場合もあります。
その場合は迷わず個人事業主となったほうが得ですが、あくまで売上は予測ですので、経営者がどれくらいの事業を行うつもりなのかで判断しましょう。
法人にすれば経費として計上できる幅が各段に広がりますし、所得税より法人税のほうが安く設定されていますのでその点も勘案する必要があります。
・信用力で考える
次に、「信用力」の違いで考えてみます。
事業を行う以上、社会的信用力は非常に重要な要素です。
取引先がいて、一般顧客がいて、その人たちから信用されなければ売上は望めませんが、やはり個人事業主と法人格とでは社会的信用力が大きく異なるのも事実です。
大手企業の中には個人事業主とは取引しないという経営方針のところもあります。
信用力もありますし、法人が個人と取引する際、源泉所得税の納付義務が法人側に発生するため、その手間を嫌がる思惑もあります。
・資金調達法で考える
前述の社会的信用にも関わってはきますが、個人事業主が運営資金を調達するのはかなり厳しい状況です。
基本的には銀行や信用金庫などからお金を借りる必要はありますが、個人事業主はなかなか思うように借りられないのが実情です。
もちろんこれは法人であっても設立したばかりの会社なら同じ状況ではありますが、法人は金融機関からお金を借りる方法のほか、社債を発行してお金を借りる方法もあります。
また株式会社なら株式を発行し、投資家に株式を買ってもらうことで資金調達をする方法もあります。
株式で得たお金は返済義務はないため、返済に追われることなく事業に専念できるのが利点でしょう。
ただしこのような資金調達法は株の概念がない合同会社(LLC)ではできません。
■それぞれのメリット・デメリットを考える
冒頭でざっくり説明しましたが、個人事業主は開業が非常に簡単なのが大きなメリットです。
税務署へ届ける必要はありますが、個人事業の開業・廃業等届出書を作成して提出すればそれで完了できます。
このときに青色申告承認申請書も一緒に提出するのが一般的ですが、法人のような登記手続が不要なのは大きいでしょう。
法人は法務局へ登記手続をする必要があり、そのときに定款と登記申請書類一式が必要とされます。
定款は言ってみれば「こんな法人にします」という設計図のようなものです。
第1条が商号、その後おおむね第40条くらいの項目があり、株式会社の場合は提出して公証役場で認証を受けなければなりません。
もちろん公文書ですので間違いは許されませんし、認められたのち、会社は定款にない事業は行うことができません。
合同会社(LLC)は認証手続が不要となるため、その点はメリットがあります。
設立時にかかる費用は、株式会社24万円、合同会社10万円となっており、無料でできる個人事業主に比べて法人のデメリットといえるでしょう。
登記申請書類一式は、登記申請書・就任承諾書・払込証明書などの書類で、同じく法務局に提出する必要があります。
ちなみに法人の設立日は、これらの書類を提出した日付です。
実際に登記簿謄本が取得できるまで1週間ほどかかりますが、書類上提出日が設立日になるので、ゲンを担ぎたい人は提出する日を考えると良いでしょう。
登記簿謄本が取れたら今度は法人として銀行口座を開く必要がありますが、これがまたハードルがあります。
できたての会社は決算書類など実績がないため、メガバンクなどではなかなか開設させてくれず、審査の難易度が高く時間を要するのがデメリットです。
信用金庫や信用組合は金融機関の中でも比較ゆるやかなため、スタート時はそうした金融機関を利用する法人も少なくありません。
ただ個人事業主も金融機関に関するハードルはかなり高いので、この点に関してはどちらがどうともいえない課題です。
近年はクラウドファンディングを利用するケースも増えつつあり、この点は基本的に法人であっても個人事業主であっても関係なく受けられます。
■税金面を決め手にするケースも多い
ここまで読むと、法人はハードルが高く手間がかかりすぎると感じる人が多いでしょう。
ただそれでも最後に法人を選ぶ人が多いのは、やはり税金面での優遇が大きいからです。
法人は税金の種類が多いのは事実ですが、納税額が少なく設定されており優遇されています。
種類だけで見れば個人事業主は4種類、法人は6種類もの納税義務を負いますが、事業規模によっては法人のほうがずっと納税額が少なくて済む場合があるのです。
特にわかりやすいのが所得税と法人税で、課税所得が330万円以上になると、法人を設立したほうが税率が低くて得になります。
一部個人事業主のほうが税率が低くなるケースもあるので綿密な計算は必要ですが、おおむね法人税のほうが得だと考えて間違いはありません。
特に社員を雇用するなら、法人は所得を分散させることが可能となります。
社員何人かに所得を分散し、それぞれの所得を小さくすることで税率を低くし、納税金額を抑えることができます。
個人事業主は所得税・住民税のほか、消費税・個人事業税の4種類の納税義務があり、儲ければ儲けるほど所得税の税率がどんどん高くなっていくのです。
しかも法人に比べて必要経費として認められる幅がかなり狭いため、ほとんど控除ができません。
高収入になると収入の約半分もが税金として持っていかれてしまう事態にもなりますので、起業前にはどれくらいの事業を行うかをしっかりシミュレーションし、どちらにすべきかを熟考しましょう。